「皮箒」 - 棕櫚の樹皮をそのまま束ねた昔ながらの棕櫚箒→ ■【棕櫚箒】皮箒の一覧はこちらから
 

「皮箒」 - 棕櫚の樹皮をそのまま束ねた昔ながらの棕櫚箒 -

「かわぼうき」 - しゅろの じゅひを そのまま たばねた むかしながらの しゅろほうき-

 

1.「皮箒」の原料になる棕櫚の樹皮と、棕櫚の木の話
2.昔々、棕櫚皮は暮らしに役立つ身近な素材でした
3.棕櫚「皮箒」について
4.新品の棕櫚皮箒から出る「棕櫚粉」について

 

このページでは、棕櫚箒のうち「皮箒」についてご紹介します。
皮箒は江戸時代以前から使われていたと考えられており、棕櫚箒の中で最も長い歴史がある箒です。まだ室町時代以前の棕櫚箒の史料は見つかっていないのですが、江戸時代の絵画には皮箒は度々描かれていて、今とほとんど同じ形をしています(今後、江戸時代の絵画の中の棕櫚箒もご紹介したいと思っています→ブログ内で少しずつご紹介していきます)

いま「箒」と聞くと色々な箒が思い浮かびますが、昭和まで京都を中心として「箒」という言葉は「棕櫚箒」のことを意味していたほど、棕櫚箒は西日本で広く普及していました。そのうち最も数多く作られ、一般家庭で愛用されていたのが「皮箒」です。本鬼毛箒は昔から高級品で庶民には手の届かない憧れの座敷箒でした。
昔も今も皮箒の品質はピンからキリまでありますが、普及していた皮箒の大半は量産品の安価な荒物雑貨で、耐久年数は数か月〜3年程だったそうです。本鬼毛箒や鬼毛箒(タイシ箒)ほど高値はつかないものの、皮箒の中には特別上質な棕櫚箒もあり、厳選した棕櫚皮(肉厚で耐久性があり、美しい色艶のある皮で、そのような皮は滅多に採れない)だけをたっぷり使った箒で、「荒物」とはいえないような美しさがあり、掃き心地もよく、10年以上長く使うことができました。当店では品質「特選」皮箒として製作しています。

【皮箒は原則修理はせずに使い切る棕櫚箒です】

昔から皮箒は「室内用として傷んできたら外掃き用におろして使い、基本的に修理はしないで寿命が来るまで使い切る」ことを前提に作られています。もちろん使われている皮が新しいうちは、銅線や糸が切れたり柄竹が割れたら修理をしますが、通常は穂先の棕櫚皮自体を新しい皮に交換・差し替える修理はしません。棕櫚皮そのものの寿命は数年〜15年程といわれており(皮の品質や保管状況により大きく変わります)、もし棕櫚箒の修理をしながら長く使いたいとお考えの場合は皮箒ではなく「本鬼毛箒」「鬼毛箒(タイシ箒)」をお求めください。

 

1.「皮箒」の原料になる棕櫚の樹皮と、棕櫚の木の話

棕櫚の木画像
棕櫚の木をご存知でしょうか? 上の画像が棕櫚の木で、南国のヤシの木によく似た高さ5〜8mくらいの木です。本州以南では植木や庭木として、また自然に自生している身近な木です。

もし機会があれば棕櫚の木に近づいて幹を見てください。棕櫚の木の幹は下から上まで茶色のモジャモジャした毛で覆われているのが分かります。そのモジャモジャは下から上まで一体につながっているようにも見えますが、実は下の画像のような茶色の薄い織物状の皮が幾層にも重なって出来ています。

皮箒原料の棕櫚皮画像
上の写真が皮箒に加工する前の原料「棕櫚皮」で、棕櫚の木の幹から1枚ずつ剥がして、皮と一体になってくっついていた茎と葉を切り落として開き、自然乾燥させたものです。天然素材なので2つと同じものはありません。(余談ですが、どういうわけかここ数年「棕櫚皮は人工的に天然繊維をプレス加工したシートですか?」「接着剤を使って化学的な処理でシート状に加工されたものですか?」等ご質問いただくのですが、それはまったく違います! 棕櫚皮は江戸時代以前から、棕櫚木から1枚ずつ剥いて、上の画像のような状態に開き、様々な生活道具に使われてきました。完全な自然物・天然素材ですのでご安心ください。)

このように棕櫚の木の皮は1枚ずつ剥くことができ、ちょうどタケノコの皮と同じような形状とくっつき方で木の幹を包んでいます。基本的に皮1枚に1本の長い茎と葉が付きます。木の生長と共に最上部の葉と茎以外は朽ちて、皮だけが幹に残り積層していきます。
棕櫚皮は1mmにも満たない茶色の細い繊維が交差した構造で、まるで1枚の織物のようです。木から剥いた皮はそのまま1枚の薄い布地かメッシュのような素材として使えますし、皮をほぐすと細い数十センチ長さ(元々の皮の長さ)の棕櫚の繊維(糸状)にもなります。
上の写真の棕櫚皮で説明しますと、下部が幹にくっついていた部分で、上の方のモジャモジャした毛が幹の表面に見えている毛の部分になります。皮の下部に少し硬そうな部分があり、切断面のあたりがちょっと膨らんでいるのが見えると思います。その切断面が、棕櫚木の幹から切り離された部分です。下は棕櫚皮の拡大画像で、キメ細かい皮なので分かりにくいですが、細い繊維が交差している様子も写っています。
棕櫚皮拡大写真

 

2.昔々、棕櫚皮は暮らしに役立つ身近な素材でした


棕櫚皮は木から剥けば簡単な加工で布地や糸のようになり、樹皮なので水に強く腐りにくくしかも引っ張り強度もあり丈夫なので、昔の人は様々な物に加工して暮らしに役立てていました。棕櫚の特性を活かして漁網やロープ、土壁の下地、蓑や箒やタワシなどに加工しました。地域によっては一家に1本の棕櫚木が植えられていました。

強靭とはいっても、他の化学繊維や天然繊維と同様に、紫外線や湿気にさらされ続けると劣化が早まります。棕櫚は空気による酸化劣化はしにくいのか、日の当たらない室内や蔵で保管されたものは、100年たっても色が黒っぽくなるだけで腐らずに、そのまま使える状態で見つかることもよくあります。築100年以上の古民家の解体時に土壁の下地に入っていた棕櫚皮を探すと、変色なく綺麗な状態の皮が出てきます。このように棕櫚皮やその繊維は、保管状態によっては他の繊維に比べ驚異的な耐久性を発揮するおもしろい天然素材です。

 

3.棕櫚「皮箒」について

棕櫚皮片手箒画像棕櫚の木から剥いた棕櫚皮をそのまま丸めて束ねて、箒の穂先になるところだけをほぐすと棕櫚「皮箒」になります。素朴で簡単な加工方法である皮箒は、いま作られている様々な棕櫚箒の元祖といわれ、現代の皮箒と似たような箒が江戸時代以前の古くから作られ、使われてきたと考えられています。
いま作っている棕櫚箒には「皮箒」「鬼毛箒(タイシ箒)」「本鬼毛箒」がありますが、鬼毛箒(タイシ箒)・本鬼毛箒も棕櫚皮をほぐした繊維を使って作る箒ですので、広い意味では棕櫚皮箒の一種であるといえます。

棕櫚皮の質にはピンからキリまであり、8割以上のほとんどの棕櫚皮は、向こうが透けるほどキメが粗く薄くて繊維が細く柔らかく、単体ではそれほど驚異的な耐久性はありません。そのような棕櫚皮は、数年〜十数年の耐久性を求められる上質な棕櫚皮箒には絶対に使えません。しかしそういった薄く繊維が細く柔らかい性質の棕櫚皮からは、丈夫なロープや紐・網、質の良い柔らかいタワシを作ることができます。
また、昔の棕櫚「皮箒」の多くは庶民の日用品、いわゆる荒物雑貨です。庶民が使っていた皮箒の大半は、自宅周辺で採取できるそのような目が粗く耐久性の低い棕櫚皮を材料に使い、作りも簡単・安価なもので、数か月から長くて数年しかもたず、いまの上質な棕櫚皮箒のように大事に何年も使うような品質の箒ではありませんでした。手先の器用な人は自宅用の皮箒を見よう見まねで自作していたそうで、そのような皮箒の多くは数か月ももたないような箒でした。

棕櫚皮全体のうち数%ですが、飛びぬけて上質な皮が採れることがあります。特別に棕櫚繊維の目がつまっていて肉厚で、美しい色と光沢を持つ皮で、見た目が美しいだけでなく油分が豊富に含まれていて丈夫で耐久性があり、しかも虫食いや刃物傷のない無傷完品の棕櫚皮。そういった質の高い棕櫚皮だけで作られた皮箒は10年以上使えるといわれる品質で、その他多くの荒物の皮箒とは耐久性や掃き心地・見た目の美しさも別格です。当店では品質「特選」の皮箒がそれです。

ただし上質な皮箒は10年以上使われることがあるとはいえ、原則修理はせずに壊れるまで使い切る棕櫚箒です。その点は修理をしながら長く使える本鬼毛箒や鬼毛箒(タイシ箒)とは異なります。皮箒が室内用の座敷箒として使いづらくなったら、土間用などにおろして使い、箒に使われている棕櫚皮自体の寿命がきて穂先がボロボロになればそれが皮箒の寿命ですので、修理はせずに廃棄・買替してください。
 

4.新品の棕櫚皮箒から出る「棕櫚粉」について

棕櫚粉の落ちている作業台画像
新品の皮箒から多少の粉が落ちるという事実は、棕櫚箒が一般的だった時代には常識だった話ですが、現代では信じられない事かもしれません。
棕櫚皮箒の特徴として、使い始めだけ箒の穂先から多少の棕櫚粉が出ます。皮箒が新品のうちはご使用前に外などで穂先を払って粉を落としてから使います。

当店では仕上げ段階で出来るだけ粉を除去しますので、通常お客様が3〜4回使用するうちに粉は気にならなくなりますが、作り手・売り手によっては仕上げの際も粉をほとんど除去せずに販売している場合があり、そういった皮箒を入手された場合は「他社製の皮箒だが数か月たっても大量の粉が出て掃除に使えない」というご相談を受けたことがあります。もし残念ながらそういった皮箒を入手された場合は、箒を持って外の広い場所に出て(粉塵がかなり舞いますので、汚れてもよい服装とマスクを着用のうえ)、穂先を手で何度も叩くなどして徹底的に粉をはたき落とすと、比較的早く粉が落ちにくくなります。なかなか大変な作業ですが。

上の画像は棕櫚皮小箒を製作中の作業台です。台や紺色の布の上、左下の白い円形の物も棕櫚粉がのって茶色になっています。元々、棕櫚皮は山の産物で「木の皮」そのものです。加工中の棕櫚皮や、完成した皮箒の穂先から落ちる粉は、棕櫚皮を形成する繊維1本1本の間に詰まっている棕櫚粉とよばれる天然の無害な粉です。皮箒は木から剥いた皮をそのまま丸めて穂先だけをほぐして出来ていますので、ほぐしていない皮の部分や、ほぐした繊維部分に粉が残っており、除去すべく努力は重ねているものの、どうしても完全に取り去って仕上げることができません。

棕櫚皮箒は「江戸時代以前から」といわれるほど、長く愛用され続けてきた歴史のある箒です。いま製作している皮箒は上質な原料だけを使っているので何年も長持ちしますし、穂先が柔らかくて、細かい埃も掃きやすく、見た目も愛嬌があり美しい良い箒ですので、新品のうちだけ手間がかかりますが(私も出来るだけ丁寧に粉を除去してお届けするよう努めますので)どうか敬遠せずにご愛用いただければと思います。

→ ■【棕櫚箒】皮箒の一覧はこちらから
棕櫚箒について基本的なこと 棕櫚箒製作舎と箒について 「鬼毛箒」鬼毛箒・本鬼毛箒・総本鬼毛箒の違い